[vol.4] ポランが求めるデザインと人生の喜び
M:最近の消費者にも問題があるとお考えですか?
P:本物を分かる人がいなくなった。第二次大戦前、お金の無い人はよりよい生活をする希望を持っていた。そして何を買ったら豊かに暮らせるのか、貪欲にその知識を得ようとした。現在は、金持ちは増えたがカルチャーのある人は減ってしまった。
M:戦前のカルチャーを持った人々は、メディアに頼らず自らの目で価値のある商品を選ぶ事ができたという事でしょうか?難しい事のように思えます。
P:決して難しい事ではない、真実とはそんなものだ。
M:現在の消費者はカルチャーを理解しているフリをしているという事でしょうか?
P:そうだ。大事な事を教えよう。リボリ通りにあるルーブル宮にある室内装飾博物館に行きなさい。19世紀に作られた宝石類のコレクションがある、本ではダメだ、実物を見ればその価値が分かる。
M:あなたが80年代以降にデザインしたものは、一部のエリートの為ですか?
P:その傾向は多少ある。
M:あなたはエリゼ宮の内装デザインを手がけられましたが、どの大統領とも知り合いだったのですか?
P:そうだ、特にミッテランとは仲が良かった。
MP:シラクは家に食事に来たわね。
M:この家ですか?
MP:パリの家です。
M:ジスカール・デスタンは?
MP:デスタンとは良い関係では無かったけど、ガーテンチェアのデザインの依頼を受けました。
M:最近カルチャーのある人が少ないと言われましたが、カルチャーとは教養のようなものですか?
P:多くのものだ。自然への感性、教養、世界への開かれた目そして家族への意識。例えば1900年代のバイキング船、フィンランドや日本の伝統的な木製製品、輪がはめられただけの桶などのシンプルだが完璧な形態、そのような物の価値を理解できるカルチャーだ。
M:大きな成功を収めましたが、あなたにとって人生の喜びとはなんですか?
P:大袈裟なものではなく、例えば仕事が軌道に乗ってデザインが実現に向かった時だ。布だけでタンチェアをデザインした時のように、シンプルな構造で何かができると発見し、イメージしたデザインが形になっていく時に幸福に感じる。全く個人的な幸せだよ。
M:最後にこれからの時代に対して、意見を聞かせて下さい。
P:新しいものはもう私からは出てこない。それらしき能力はまだあるが、それだけだ。私は過去でしかない。たとえそれがエレガントで巧妙だとしてもね。現状に反発し、新しいものをもたらす若い人がでてくるのをおおいに期待しているよ。そして、本物のデザイナー、主張のある人の誇りが再現されることを願う。誇り高いことは何よりも大切だと思う。
M:本日はありがとうございました。
インタビューのあとも夜遅くまでワインを飲みながら、いろいろなことを語り合いました。
その日はポラン宅に泊まり、翌朝マイアさんの特製サラダを頂いたあと、ピエールに自宅の周りの森を案内してもらったのを思い出します。
彼は一昨年この世を去りました。
今年の1月、マイアさんとパリで食事をした際、ピエールの思い出話もしました。その時、彼女が最後に言ったことをお伝えします。「私にとってピエールは、初めて会った時から一緒に生きた間、そして息を引き取った顔、すべてにおいて素敵な男性でした。そしてあなたたちは、20世紀を切り開いたデザイナーの『最後の一人』がいなくなったことを受け入れなくてはならないのね。」
この言葉を聞いてインタビューの再編集を決めました。
皆様にピエール・ポランを少しでも近くに感じて頂く一助になれば幸いです。
2011年5月21日
M:フランスはオートクチュールなどデザイン面では進歩しているように見えますが、家具についてはイタリアや北欧が中心です。どうしてだと思いますか?
P:フランスはルイ15世や16世の時代から、デザインの先端にはいなかった。革命以前、フランスの上流階級にはすばらしい頭脳を持った人々がいた。サロンにいた彼等は、東からやってきた創造的な若い芸術家を受け入れ、彼等の荒削りなアイデアを洗練させてルイ15世や16世スタイルを築き上げた。つまり、それはオリジナルでは無く、東から来たアイデアを改良したスタイルなのだ。フランスからは何も生み出されていないのだよ。
M:それは家具についてですか?それともデザイン全般についてですか?
P:全般についてだ。
M:現在のデザインについてはどうでしょうか?
P:今のデザインはゼロだ。企業が購買力のある人々に対して、売れる物を作っているだけだ。過去のコピーにすぎない。製造する企業、経済力のある経営者も、製品を買う消費者の好みに支配された犠牲者だ。あえて何が問題かと問われれば、それは消費者とのコミュニケーションのあり方だ。広告やメディア、企業のマーケッティングという発想が、デザイナーの誇りを失わせてしまった。
自宅前の森を案内してくれた際の一枚。