[vol.3] 家具デザインの仕事
マイア・ポラン（以下MP）：デスクと椅子のどちらからはじめたの？
P：覚えていない。
MP：私の誕生日も覚えていないでしょ（笑）
P：1942年5月9日
MP：ちゃんと覚えているのね、とても大事な事よ（笑）
P：イームズの仕事も半分は夫人であるレイによるものだ。ル・コルビジェの家具はシャルロット・ペリアンのデザインだ。ワイフは大切にしなくてはいけない（笑）
M：トーネット社とは作品ごとのデザイン契約をしたのですか？
P：いや、ロイヤリティー契約だった。
M：弁護士を通してですか？
P：実は2000年まで弁護士と契約をしていなかった。私は金銭的な利益を受けるのが下手で、経済状況はひどいものだったよ。でも当時の私は創造する事に夢中で、お金の事に意識がいかなかった。そういう時代だったしね。
M：その後アーティフォート社では大きな成功を収めたように見えますが…
P：彼らとは58年から仕事を始めたが、やはりロイヤリティーを全部申告していなかったようだ。何回も経営者が変わり、80年代の数年間も報酬をもらっていないが、よく覚えていない。
M：コルビジェ等も、きちんと報酬をもらっていなかったのでしょうか？
P：そうかもしれないね。
MP：デザインが売れるようになったのは、75年くらいからですよ。私の事務所でも、家具デザインよりパッケージデザインの方が高い報酬を得られることがありました。
M：ご自身の会社AD社の事ですね、詳しく教えて下さい。
P：マイアと私ともう一人の三人で会社を作った。1973年の事だ。
MP：最大で60人のスタッフがいました。
P：でも金は儲からなかった。
MP：前よりは少し良くなったでしょ。
P：少し儲かったが、まだ十分ではなかった。
M：ロジェ・タロン氏もAD社にいたのですよね。列車TGVの車両デザインを行ったのはAD社にいた時ですか？
P：そうだ。
MP：彼の会社がうまくいかなくなったので、私たちのところへ来るように提案しました。
P：彼も私と同じで、金銭的な面が疎かった。
M：タロンのデザインについて聞かせて下さい。
P：タロンと私のデザインアプローチは反対だった。私が少しエリート主義的なのに対して、タロンは大衆主義的なデザインを得意とした。フランス国鉄の彼の列車デザインはすばらしい。本当の改革だった。彼の家具は評価できないけどね。
M：ムルグについてはいかがですか？
P：彼は私のデザインをコピーした最初のデザイナーだ。
M：「2001年宇宙の旅」にはムルグの家具がでてきますね。
P：素直に私の意見を言おう。ムルグには多分才能がある。才能があるけど、私の作品をコピーしたのだ。彼の作品は悪く無いと思う。でも突然仕事を辞めて、今はブルターニュでデッサンの教師をしているよ。
M：話は変わりますが、あなたの作品は50年代にはプチデスクのようなシンプルな作品が多く、60年代以降はオーガニックな形が多くなったように思います。
P：技術が進歩して色々な形が可能になったのと、ハーマンミラーやノルインターナショナルの影響を受けたからだ。影響を受けたのは他にもあるが、とりあえずこの2社の名をあげておく。
M：椅子で言えば、伸縮素材の張地がオーガニックな形を可能にしたのでしょうか？
P：そうだ。私がこういう素材を椅子の張地に最初に使い始めたと言っておくよ。私はイタリアのマルコ・ザヌーソがデザインした、マルタンガラという椅子に大変興味を持っていた。マルガンタラは、紳士用のコートに使われていた生地をアームチェアに被せて後ろでとめていた。大変すばらしいアイデアだ。彼には敬意を表するよ。私は後により複雑な形態に対応する伸縮性の高い生地を捜した。
M：生地はアーティフォート社で開発したのですか？
P：はじめて使った生地は、子供や猫が引っかけてすぐにほつれてしまうので困った。そこで独自にデンマークやノルウェーに行って生地を捜してきたよ。
廊下の一角に置かれたリボンチェア。
M：他の素材についてはどうですか？
P：ABSやファイバーグラスは複雑な形態を可能した。私も使った事があるよ。
M：家具以外に照明器具などのデザインは行わなかったのですか？
P：照明デザインを行うには、照明に関する新しい技術をあらかじめ研究する必要がある。私はそれをやっていない。だから照明のデザインは行っていない、残念だ。
M：トーネット社との仕事は北欧旅行の後ですか？
P：そうだ。
M：どのような経緯でトーネット社の仕事をするようになったのですか？
P：生活費を稼ぐ為に自分から会いに行ったよ。私から売り込みに行ったのはこの時だけだ。
M：トーネット社の最初の仕事はデスクのデザインですか？
P：沢山あったので覚えていない。
M：トーネットはドイツの会社ですが、デスクはドイツでも商品化されたのですか？
P：いや、フランス国内だけだよ。他の製品もそうだ。
M：プチデスクをデザインした時のことを覚えていますか？
P：あまり覚えていないが、これは自宅で使う個人用の為のデスクだ。